同期の桜・並木


 昨年の夏、一本の電話があった。「T(会社名)の雰囲気について教えて下さい」と。会ったこともない何年か下の大学の後輩だそうで。
 「え〜と、実はもう辞めてしまっていて…」
 それでも構わないということなので少し話をし、最終的に「雰囲気は良い会社なので、頑張って下さい」とまとめてみた。本心である。
 入社当時は、男5・女13人。それが、約7年後の今では男4(これはこんなもんか)・女2。
 よい会社なのにこの定着率は何?と思われる向きもあるだろう。やはり結婚退職(しかも社内結婚)が多いからなのだ。遠くの実家に帰ったりする人もいたが、数年以内には結婚している(まあ…私も含め)。私の出席した結婚式がじつに15を数えるのも、こういうことが集中したおかげ。
 入ってすぐ、女では私が一番年上ということがわかり、一歩置くような感じになってしまった。性格も興味の対象も合わないだろうな、と一方的に逃げていたと言ってもいい。一年間くらいはそういう関係だったが、配属替えなどがあって事態は変わっていった。プライベートでも否応なく関わり、更衣室で大泣きの大ゲンカとか、徹夜でカラオケ大騒ぎとか、何だか妹がいっぺんに増えたような状態である。彼女たちの中には気の合う合わないがあるようだったが、年上ということもあって私は割合どの子とも仲良くできた、と思う。
 特に仲良くしていたのはMとHの二人。誰が見てもかなりの可愛さで、三人でいると私は自分が闖入者のように感じたりした。
 私が退職するときの話。Mは用事があって一旦帰ったのに、どうしても残業になってしまった私を気づかってタクシーで会社に戻ってきた。そして会社の人が行っていそうな飲み屋さんに二人で押し掛けてしまった(送別会は前日に済ませていたのだが)。こういうことは忘れられない。
 しかしあくまで言葉は乱暴で、そんなときでも「仕方ないから戻ってきたったわ。あ〜めんど」という感じ。これは彼女に限らないが。
 本当に同期からはいろいろ教わった。人は第一印象で判断できないということ、素直な生き方というもの、重役クラスとのくだけた会話の方法、人との距離のはかり方・近づけ方。
 教わっても上手くなっているわけではないが、学生時代とはまた違った魅力のある友人たち。因に同期会が年に1・2回開かれていて、来るのは当然とばかりに呼び出しがかかるのである。
 どっと疲れるのだが、楽しい。